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原稿の表紙

『ディパーチャー』

アラン ウェイク著

ウェイク、闇の殺人鬼に襲撃される

振り向いた男の顔は影に覆われ、周囲を取り巻く森の闇とほとんど見分けがつかなかった。
だが、男が振り上げた斧は、そこに光る血のりまでもがくっきりと見てとれた。
男は不気味な笑顔を浮かべた。
まさに悪夢のワンシーンだったが、俺は眠ってなどいなかった。

ウェイク、光を手に闇と戦う

「それ」は目の前に立ちはだかっていたが、なぜか焦点を合わせられなかった。
まるで水中に広がるインクのように、「それ」は流動的な影の集合体だった。
恐怖のあまり、追い払いたい一心で、
フラッシュライトをきつく握り締めたその瞬間、何かが起きた。
そのライトが、ひときわ眩い光を放ったのだ。

闇の存在、目覚める

長い間、闇の存在は力を失い、眠り続けていた。
半ば忘却の彼方へと追いやられた悪夢のように、
あるいは夜の森で視界の端をよぎる影のように。
あるかなきかのリアルさで、だが決して無視できない存在感で。
それが今や、ついに覚醒しようとしていた。
小説家は、蜘蛛の巣にかかった蝿のように、
もがけばもがくほど、がんじがらめに取りこまれていった。
彼の存在に気づき、利用しようと企む「それ」にとって、彼はまさに格好の餌食だった。

ウェイク、鳥の群れに襲撃される

姿を現すより先に、まず凄まじい鳴き声が突然空を覆い尽くした。
次の瞬間、俺は夥しい数の黒真珠のような目に狙われていた。
フラッシュライトを向けると、群れは花火のように飛び散った。
焦げた羽が灰となって降り注ぎ、俺の悲鳴は断末魔にかき消された。

ウェイク、原稿を探す

最初、原稿はまるで偶然のように見つかった。
書いた覚えのないその小説は、恐ろしい予言の書、あるいは新たな世界の創世記だった。
やがて俺は、夢中で残りのページを探し始めた。
自分自身とアリスを救うために。

ガソリンスタンドのテレビ

スタンドのガレージは暗く、静まり返っていた。
そこは、まるで乱闘の後のように、ひどく荒らされていた。
奥のドアから光がもれている。
突然、眩しい光に目がくらんだ。
棚に置かれた古いポータブルテレビが勝手についたのだ。
画面の中では、信じられないことに俺自身が、狂ったように独り言をまくしたてていた。

ウェイク、保安官に嘘をつく

「湖のキャビンですか?」そう言って、保安官はいぶかしげに俺を見た。
早朝の明るい日差しが窓から降り注いでいる。
彼女が現れなければ、森から生きて帰ることは不可能だったろう。
だが、昨夜の出来事を打ち明けるわけにはいかなかった。
信じてもらえるわけがない。
俺は拘留され、アリスを捜せなくなってしまう事態を恐れた。

スタッキー、闇に飲まれる

スタッキーはガレージの床に唾を吐き、頭を振った。
例の夫婦客に鍵を渡し損ねて以来、何もかもがぼんやりとしている。
ふと、気配を感じ顔を上げた。
その瞬間、恐怖に一切の思考回路が凍りついた。
よろめいた拍子に蹴飛ばしたオイル缶から、黒い液体が床に広がる。
束の間の抵抗も空しく、彼は無慈悲な闇に飲み込まれた。

ローズ、ウェイクを想う

喋りすぎという自覚はあったが、ローズは気にしなかった。
アラン ウェイクとの束の間の遭遇は、まさに人生における絶頂だったのだ。
妻が待つ車に乗り込むウェイクを見送る。
彼の妻は美しく、自身に満ち、くつろいでいた。似合いのカップルだった。
彼らの友人になれるなら、どんな犠牲もいとわないとローズは思った。

バリー到着

バリー ウィーラーは気が気でなかった。
アランとアリス、そのいずれとも連絡が途絶えて、すでに数日が経過している。
二度目のハネムーンというわけでもないだろう。
アランはとてもそんな状態ではなかった。不眠が続き、情緒不安定だった。
アランとは長年の付き合いだ。
これはとても見過ごせない。何かが起きたのだ。

トビー

それは馴染みの匂いだった。
いつもおやつをくれて遊んでくれるあの人だ。
トビーはちぎれんばかりに尻尾を振り、一声吠えた。
だが、ふと別の臭いにも気がついた。嫌な臭いだった。
トビーは足を止めた。困惑し、喉の奥で低くうなる。
嫌な臭いは、いつものあの人から漂っていた。
本能的な恐怖がトビーの脳を貫いた次の瞬間、
その同じ場所を目がけて斧が振り下ろされた。

ローズのコーヒー

バリーはコーヒーをもう一口すすり、ローズに笑いかけた。確かに、これはもう愛だ。
ローズは息もつかずに喋り続けた。
「新作が待ち遠しいわ!『ディパーチャー』は一生出ないなんて言ってる連中、
 ほっときゃいいのよ。じっくり傑作を書いてね。楽しみだわ!」

  • 最終更新:2013-02-19 10:26:50

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